- Daisuke A
パリのモデル事務所 ~ 第一章7
自分は最終手段の反則技で事務所を受ける形なので、所属出来なかった場合はコレクションに挑戦する前に門前払い、記念旅行となるには費用もリスクも高過ぎるよね。
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事務所に入れなかったらどうするか?恐すぎる! けれど、楽しみでしょうがないとも思えてる♪
パリへの到着は現地時刻の早朝、まだ空港関係者がやっとで動き出した時間帯だった。海外の地に降り立った事を満喫する余裕もなく、足早に宿泊先への移動を急いだ。とりあえずはボブ君のホテルに荷物を置かせてもらい、すぐにボブ君の所属するモデル事務所へ一緒に向かった。睡眠は不十分だったけど、眠気なんて微塵も感じない。
自分はすぐに事務所探しをする必要がある、時間にも余裕はないから。先ずはボブ君の所属する事務所『 Bananas 』を受ける。偶然で自分がパリで所属したい第一希望の事務所だった。日本の同じ事務所で数年前に海外で活躍していた先輩が所属していた事務所がパリはそこであり、ミラノは『 Major 』だった事が自分の希望した理由。
先ずは事務所に受からないと、次へのチャンスがない!
本当に来てしまった、パリのモデル事務所『 Bananas 』に到着。2016年現在でもここはメンズで強い事務所。
ヨーロッパは建物の敷地内に入る段階からオートロックに近い感じの入口が存在する所が多くて、知らなければ先ずはそこから苦戦する。ボブ君は躊躇なく外のインターホンを押し、会話もなくロックが解除されたかの様な音とともに敷地内へ入った。 『大介、ここから奥に入るんだよ、到着!ついに到着~♪』 ボブ君は背中にラスタカラーの羽でも生えてるのではないかと思う位に動きがノリノリで軽いと感じる。 ボブ君の言葉を聞いた瞬間に硬直、自分の羽は先に進む事に待ったをかけた。これは俗に言うビビるとした表現が当てはまる。そして悪魔の囁き。「やっぱ挑戦は中止にして、ただのヨーロッパ見学にしちゃう?今ならリスクはないよ♪」いまさら何を言っていると思うのだが、一瞬でもこう感じてしまったのが事実……。
『何してんの?早く行くぞ~』 ボブ君には、自分がこのオートロックを珍しそうに眺めているかの様に映ったのかもしれない。もし独りだったなら、どうだったか……。再度ボブ君の言葉に反応した。
ここでスーパーモデルモードをオン♪日本では自分の中でモデルモードと呼ぶものがあった。普段はモデルの意識がないので、オーディションの時や仕事の時、あえて自分でモデルの雰囲気を心がけるモード。現実的には仕草や姿勢に変化がある程度で、やり過ぎて痛い人になってはいけないと心がけている。ちなみに、海外では意識的にスーパーが付くバージョンアップにしていた。
事務所に入り、早速のエントランスで驚く。エントランス要員が存在していて、明らかに日本人ではない事で海外を実感、ちなみに日本では珍しい。ボブ君は歩きながらの軽い挨拶でさらに奥へと突き進む、自分は後を追いながらその姿をカッチョイイと感じていた。 『大介、ここで待ってて』 そう言い残して、ボブ君はさらに奥の部屋に消えて行った。
そこは小さな部屋で、ソファとテーブルが2セットで存在する空間、テーブルにはファッション誌らしき雑誌類が少々で散乱している。壁にはポスター大の額装された写真やポスターが目一杯で並んでいた。部屋の床から壁に照明など、すべてがヨーロッパ風とはこれかと感じるほどの憧れた眼差しで観ていたかもしれない。
そして極めつけのオブジェが数体で存在。アジア系には見えない男性が数名くつろいでおり、その全員がかなり強烈な雰囲気でカッチョイイ。これから仲間になるかもしれないが、ライバルでもあるのだから、負けてはいられないとも感じる。この時、外の入口で一瞬でも気弱になった事なんて完全に忘れていた。
とりあえず、この事務所はボブ君からマネージャーに自分の事を紹介してもらう予定。数分してボブ君が戻って来た。その後ろに小奇麗な服装をした黒人男性も一緒。